「グレートヒマラヤ撮影日誌」終わりました。リアルな会話は文学を超える。
2月25日で、NHKの「グレートヒマラヤ撮影日誌」が終了しました。
本編の「グレートヒマラヤトレイル」にない画像もあって充実していました。
セクション4では世界第3位の標高8586mの山頂を含むカンチェンジュンガ山群を一つのカメラフレームに収めるため、南側の標高6143mのボクタ・ピークに登ります。
氷の上に雪が積もった絶壁のような急斜面を登らなくてはいけません。
少しずつ進み、最終アタックは標高5500mに張ったキャンプからです。
山頂まで約560m。5時間かけて登っています。
登るのは石井邦彦(クニ)さんと中島健郎(ケンロウ)さん二人のカメラマンです。ケンロウさんは日本を代表するアルパンクライマー(岩壁登攀)でもあります。
急斜面を登る映像はすごい迫力があり、ボクタ・ピーク山頂からのカンチェンジュンガ山群の映像やドローンでボクタ・ピーク山頂にいる二人とカンチェンジュンガ山群までを一望するカメラワークも見たこともないものを見る珍しさと美しさで見る者を圧倒します。
しかし、この番組がすばらしいのは、二人の「会話」です。空気が普通の半分しかなく、息が切れてしゃべれないこともあって、短いやり取りなのですが、その短いことばに凝縮されたふたりの気持ちの「真実」があります。
二人の短い会話は文学的であります。いや、リアルな会話なんだから当然かもしれません。
そして、その二人の気持ちの真実に、世代の影響だけではないのでしょうが、高度経済成長とバブルを生きてきたわたしの世代とは違う感性を感じます。
この違いをまだ明確な言葉で言い表せていないんです。「やさしさ」とか「ナイーブさ」とか「ゆるさ」とかを思い浮かべています。
ワタクシ、会話を書き起こしました。
( )はわたしのコメントです。
シーン1
クニ すごいところを登ってきました。そして、すごい傾斜です。(中略)
ケンロウ 石井さん、どう調子?いい感じ?
クニ 意外といい感じ。
(「意外と」は結構きついと思っていることを表現している。)
ケンロウ いい感じ?OK、登るよ。
(しかし、登りたいケンロウはGOサインと捉える。ぐずぐず言わない。)
シーン2(傾斜がきつくなってきている。クニさんのスピード落ちている。)
ケンロウ 大丈夫?
クニ このくらいの傾斜が限界かな。・・・これどうかな?風強いし。
ケンロウ ん?どうかなあって言うのは山頂行けるかなって言う?
クニ 行きたい?
(クニさんは傾斜がきつく、風が強くてドローンが飛ばせない可能性が高いこともあって、登るのに少し消極的。)
ケンロウ 行きたい。(笑い)いや、もちろんちょっと厳しいのなら・・・
(行きたいケンロウさん。しかしクニさんに配慮の姿勢をみせる。)
クニ いや、大丈夫だよ。じゃあ行ってみようか?
(ケンロウさんの行きたい気持ちに配慮して先に進む意思表示をする。「行ってみようか」という問いかけの形で意思を伝えているところが押しつけがましくない。相手に寄り添う感じがする。)
ケンロウ OK
(行けてうれしいな。)
シーン3(傾斜はさらに急で厳しくなる。)
ケンロウ 大丈夫?石井さん。
クニ いやあ、なかなかだね。
(「なかなか」という表現が否定的ではなく、受け入れているが結構きついことをよく表現している。)
ケンロウ リアルパンクライミングですね。
クニ これはケンロウがやるところじゃん!ついてきちゃったよ。
ケンロウ 来させちゃったよ。
(この「ついてきちゃったよ」「来させちゃったよ」の会話が、本編の時から私の心に深く残っていました。クニさんが自分の限界を少し超えているけど登っている自分を客観的に見て、若干当惑して、若干うれしく思っていることが表現されています。そして、登りたいケンロウさんは少し無理をしているクニさんに申し訳なく思いながら、自分のしていることに間違いはないと確信しているようです。)
到着シーン3 ついに山頂へ到着
ケンロウ はーい、お疲れ!
クニ お疲れさん!
ケンロウ いやいやいやいや・・・遠かったー!遠かったね。
クニ 着いたね。
ケンロウ 着いた。
(すごくたいへんなことを「お疲れ」と「遠かった」と「着いた」という言葉ですべて表現している。この相手の言葉を繰り返すところは「小津安二郎」的でもある。)
シーン4 頂上で撮影が一段落して
ケンロウ 石井さん、よくぞ・・・よくぞここまで付き合ってくれましたね。
クニ ケンロウのおかげだ。来れたわ。ちょっと無理かと思ったけど。
ケンロウ でも二人の力を合わせれば
クニ まあね。一人だったらこれなかったな。
ケンロウ 私も一人だったら絶対に来れないよ。
(ここは比較的ありがち会話なのだが、クニさんの「まあね」が効いている。「そうだよね」や「本当に」などの言葉でなく、少しかわした、ずらした感じが逆に温かみを感じる。)
わたし、ミュージカルや演劇は苦手なんです。映画は好きですが映像メインで見てしまいます。つまり、セリフの力をよく感じることができません。
小説やシェイクスピアの戯曲のように文字になったものでは言葉の力を感じることができます。
しかし、この番組の言葉は予定されたセリフではないはずで、その言葉がここまで心を揺さぶるとは・・・・・
すごい番組です。
今後さらに、この「グレートヒマラヤトレイル」という番組は続くのでしょうが、ワタクシのこの感想を意識することなく(当然気にしないでしょうが)、このスタイルで続けてほしいです。
参考までに、この行程のテレビに収録された関係部分のすべての会話を以下に載せます。
クニ すごいところを登ってきました。そして、すごい傾斜です。
ケンロウがこの傾斜でなんか道具出してます。360度カメラだ。
ケンロウ 石井さん、どう調子?いい感じ?
クニ 意外といい感じ
ケンロウ いい感じ?OK、登るよ。
クニ 登るよ。
ケンロウ 日が出てきたから。
クニ 行こう。
ケンロウ いそがしいぞ。(不明瞭なので違うかもしれません。)
~ 時間経過~
ケンロウ いや、急だね。
~ 時間経過~
クニ なんてところにいるんだい・・・
~ 時間経過~
ケンロウ けっこう吹いてきたね上。すごい風やね。
~ 時間経過~
ケンロウ 大丈夫?
クニ このくらいの傾斜が限界かな。
ケンロウ あーはーはーはー
クニ これどうかな?風強いし。
ケンロウ ん?どうかなあって言うのは山頂行けるかなって言う?
クニ 行きたい?
ケンロウ 行きたい。(笑い)いや、もちろんちょっと厳しいのなら。
クニ いや、大丈夫だよ。じゃあ行ってみようか?
ケンロウ OK
~ 時間経過~
ケンロウ 大丈夫?石井さん。
クニ いやあ、なかなかだね。
ケンロウ リアルパンクライミングですね。
クニ これはケンロウがやるところじゃん!ついてきちゃったよ。
ケンロウ 来させちゃったよ。
~ 時間経過~
ケンロウ もうちょいだと信じて行こうじゃないか。
~ 時間経過~
ケンロウ ガッチガチー
~ 時間経過~
ケンロウ ちょっとここだけブルーアイスなんで気をつけて。
ケンロウ なかなかのナイフリッジ。(稜線がナイフのように固く尖り凍っている。)
<ケンロウさん、ルートを変える。>
ケンロウ ダブルアックスじゃないとリッジは厳しそうなんで。
~ 時間経過~
クニ 6000(メートル)に行った。
ケンロウ 行った?
クニ あー
ケンロウ もうすぐですわ。もうそこやろ。よっしゃ、行くぞ。
~ 時間経過~
ケンロウ ほーっ!
ケンロウ ほーい!
クニ ほーい!
ケンロウ はーい、お疲れ!
クニ お疲れさん!
ケンロウ いやいやいやいや・・・遠かったー!遠かったね。
クニ 着いたね。
ケンロウ 着いた。よかったー。
~ 時間経過~
ケンロウ 絶景やないか。なんじゃこりゃー!
~ 時間経過~
ケンロウ 見てよ。五大宝蔵見えてるよ、これ。南峰、中央峰、主峰、西峰、ヤルン・カン、カンバチェン。
クニ おお見えた。
~ 時間経過~
ケンロウ 風がねえ・・・わかりにくいけどけっこう風ありますから。
クニ あるねえ・・・
ケンロウ 飛ばせるかなあ・・・
~ 時間経過~
ケンロウ そっち風ないやんな!ある?
~ 時間経過~
ケンロウ ドローン、今ならいけそう。
ケンロウ 行った。
クニ ケンロウが行きました。
~ 時間経過~
ケンロウ 石井さん、よくぞ・・・よくぞここまで付き合ってくれましたね。
クニ ケンロウのおかげだ。来れたわ。ちょっと無理かと思ったけど。
ケンロウ でも二人の力を合わせれば・・・
クニ まあね。一人だったらこれなかったな。
ケンロウ 私も一人だったら絶対に来れないよ。
クニ 今までいろんな山に登ったけど、これいちばん頂上感あるかもしれない。
ケンロウ よかったー!
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