イギリスについてミス・マープルから学んだ
今週のお題「おじいちゃん・おばあちゃん」
ミス・マープルは世界一有名なおばあちゃん探偵。
最近、アガサ・クリスティーを再読しているのですが、特にミス・マープルのシリーズを丁寧に読んでいます。
そこで、ふと思ったのが、私のイギリスについてのイメージはほとんどミス・マープルをとおして作られている。
実際にはイギリスに行ったことはありません。(涙)
ミス・マープルが書かれた時代も1930年ごろから1970年代までで、当時のイギリスは今とまったく違うだろうし、当時のイギリスも実際体験したらクリスティーが描いているものと違う風に見えたかもしれません。
しかし、当時のイギリスはこんな風だったというものが私の中で出来上がっています。そういえば、イギリスの生活・文化が伝わる文章とか映画とか少なくありません?特に最近のもの。カズオ・イシグロも、「日の名残り」は戦後すぐの設定だし、ほかの作品もイギリスらしいものはないと思う。
では、ミス・マープルから学んだイギリスについて列挙していきます。
1 階級制度
ミス・マープルは爵位のある階級ではないけれど、中の上ぐらいの階級の人であることがわかります。家庭教師から教育を受け、イタリアの寄宿学校に行ったこともある。ドイツ人の家庭教師も付いていた。古い頑丈な家に住み、メイドがいる。ただし、今や収入は少なくぜいたくはできない。
ミス・マープルで登場する階層は次のようなものです。
上流階級。貴族のヒエラルキーが強く存在する。
上流階級ではないが富豪。
聖職者・医師・弁護士といった専門職。
使用人。上流階級の家には家政婦・執事・メイド・料理人・運転手・庭師といろいろな使用人がいてその中にも階級がある。
軍人。位の高い人はそこそこの名門の出であることがわかる。
ミス・マープルには農業をする人は少し出てくるが、商業者・工場労働者はほとんど出てこない。
2 財政状況
上流階級層は、広大な土地と家があり投資による利益や利息収入で豊かに暮らす人々と、爵位があっても財産をなくしかつての名門をかさに生きている人、低い階級であるが事業等で財をなし貴族同様の生活をしている人などが出てくる。
信託財産等から収入があり(不労所得)それだけで豊かに生活できている人がいて、相続するものの大きく、だから殺人事件が起こる。一方、イギリスの経済発展も速度が落ちて信託財産等からの収入が減り、生活に苦しむ人も出てきている。
3 持ち物
ミス・マープルの階級では質の悪いものは持たない。古いものは可。古いものが可なのは、物を大事にするということも上流階級の特質だという現れ。さらに上級階級が貧しくなっているが、やむを得ない対応ということだろう。
質実剛健なそして上品な服の素材としてのツィード。
私、ツィード好きなんです。シャネルのツィードではなく、イギリスのチェックのツィード。スーツとかスカートとかそれも30年前に買ったものもあるけど、美しいのです。英国の香りがします。
4 食べ物・飲み物
疲れた時は濃い紅茶。紅茶はぐらくら煮立ったお湯でいれなければいけない。キドニーパイとか内臓系の食べ物をよく食べる。シェリー酒。朝食のあれこれ。トースト・ベーコン・たまご・にしんなど。
私は濃い紅茶が大好きで、煮立ったお湯でいれます。昔の時点でミス・マープルに影響されていると思います。
5 庭
ある程度の階級の家にはいわゆるイングリッシュガーデンがある。一年草・多年草・球根、ボーダーガーデン・ロックガーデンと多彩な庭の記述が多く、これまた私のガーデニングの原点はここにあります。そしてときどき出てくる植物のカタログ。サカタのタネにもありました。結構厚くて見ると夢が広がります。今もあるのかなあ?
6 看護師
少々細かい話ですが、看護師が患者と話すとき、「わたしたち」という言い方をします。これは当時一般的だったようですがミス・マープルは嫌い。イギリスで今も看護師が「we」を使うのか不明。興味があります。ナイチンゲールの国ですから。
<例>看護師がミス・マープルの部屋に入ってくる。「わたしたちすこしお昼寝しましたね。」「わたしは編物をしていたのよ。」
散歩から帰ったミス・マープルに家にいた看護師が言う。「わたしたち、とてもつかれましたねえ。」
7 地名
トーキー・ボーンマス・パディントン駅とかいう固有名詞も覚えた。
8 ホテル
小説の中でよくホテルが出てくる。ロンドンの高級ホテルやリゾートホテル。ホテルの雰囲気、部屋の様子、スタッフの接客の描写に、ホテルってこんなところなんだと学んだような気がします。
バブルのころ、高級ホテル大好きでいろいろ泊ってそれぞれのホテルの雰囲気の違いなど楽しんだものですが、あれも今思うとミス・マープルの影響だったかもしれません。ただし、今や清潔に安全に泊まれれば安いほうがよしとホテルを選ぶようになった私は変わりました。
9 外国人に対する偏見
ミス・マープルには偏見のコメントは少ないが、イギリス人一般としては外国人は得体のしれないよくない人々である。戦争で仲間だったフランス人に対してさえもすっきりしない感情がある記述が多い。それを考えるとクリスティーがもう一人の有名探偵ベルギー人のエルキュール・ポアロを主人公に小説を書いたことが、画期的でもあり、イギリスを少し客観的に見る(もっと言うとイギリスを少しおちょくった)構造になっているのかなあとも思えます。
きょう思いついた列挙はここまでです。
ミス・マープルが活躍したというかアガサ・クリスティーが作品を書いた時代(1930年代から1970年代)は、イギリスにとっても世界にとっても変化が大きい時代でした。クリスティーはその変化の中でその時代を考慮した思想を持ちそれを描写しています。
例えば、女性に対する考え方も、ビクトリア時代のように紳士に寄り添うとか、男性を立てるとかを美徳とする表現もある一方、行動的で自己主張する女性も共感をもって描いています。
おもしろい女性で代表的なのが、ルーシー・アイルズバロウです。「パディントン駅発4時50分」でミス・マープルの探偵を手伝う役なのですが、ケンブリッジを優秀な成績で卒業し、学者か教師になるところ、お金をたくさん稼げる仕事がいいと、需要の高い家事労働の道を進んでいるという役です。完璧な家事で、高い給料を出す依頼が殺到している。でも気に入った仕事しか受けず、さらに長期の仕事は受けず、気の向いたときに自由時間を持てるようスケジュールを組んでいるというのです。
きょうのミス・マープルのお話はこんなところでおしまいにします。
ここまでお付き合いいただきありがとうございました。