世界で伝染病が蔓延する小説がこの9月に日本で翻訳されていた。カレル・チャペック「白い病」
<ネタばれはないと思う!>
不覚にも全く知らなかった。今私はカレル・チャペック読み直し強化期間なので、手元に持っていない本を探して、Amazonを検索した。図書館で借りて読むなどして、手元になかった本を数冊購入することにした。その検索の中に「白い病」があった。全然聞いたこともない題名だが、専門家でもないので知らなかっただけだろうと思って、購入した。コロナ禍の今、カミュの「ペスト」みたいに売れてるんだろうかなどと思いながら。届いてびっくり。この9月に発行されたばかりなのだ。岩波書店がこの時期にふさわしい作品として出版したのだろう。
きのう、さっそく読んだ。
白い病は50歳以上の人にしか感染しない。(これも全体のストーリーの中で意味があることなのです。)皮膚に大理石のような白い斑点ができるのが始まりで、やがて体が腐って死んでいく。世界各地で流行している。治療方法はない。ただ一人の町医者を除いて。その医者は治療方法を公表するのに一つだけ条件を出した・・・
・・・という風なお話である。
世界的な伝染病というだけで、コロナ問題とまったくかぶっているわけではなく、むしろ問題の焦点は医者の出した条件にあるのだが、コロナを知らない去年読んだら同じ感想を持ったかどうかはわからない。とにかくおもしろく読んだ。
まだ、「ロボット」と「山椒魚戦争」を再読していないので、チャペックの総括としては少し早いのだが、私がチャペックが好きな、まさにその作風で書かれている。その作風とは・・・
リアリティーがない。
これは欠点ではなく、故意におとぎ話のような、リアルなこまごまをそぎ落とした描写となっている。そのため、「乾いた悲惨さ」が感情的にではなく、理性的に読むように仕向けている。記憶では「山椒魚戦争」はちょっとじめじめ暗かった印象があります。
荒唐無稽
リアリティーがないことと共通の土台かもしれないが、展開が意外な方向に向かう。飛躍が大きいというか。ある種大人じみていない。チャペックの発想力のすごさ。そこが読んで気持ちいい。自分が自由の平面に立っている錯覚が起きる。
世界の矛盾を声を大きく訴えている。
チャペックには人間全体に対する愛があって、人間愛を実現させない制度や人間の欠点を暴く。
悲惨な結末にも人間に対する希望を感じる。
ひどい結末を描くのだが、それが上で述べたことの影響で、「こんな風にはなりたくないよね、ならせないようにしようよ」という希望に満ちたメッセージとして受け取れる。
ここまで総括すると、チェペックのまとめをかなりしてしまったようですが、この愛すべきカレル・チャペック読み直し強化期間を続けていきたいと思います。
「山椒魚戦争」の印象が悪くて、昨日の晩まで読み直す勇気がなかったのですが、勇気を振り絞って、Amazonの「購入する」ボタンを押してしましました。